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司法 第76条~第82条
第76条 司法権。裁判所、特別裁判所の禁止、裁判官の独立

【弁護士】 司法について勉強しましょう。いきなりですが、司法って何ですか?

【生徒】 教科書には、「具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用」って書いていますが…。結局のところ、何らかの事件が発生して、法律を使って事件を解決していくということでしょうか?

【弁護士】 その通りです。76条1項は、そうした事件を解決する権利を裁判所に与えているのです。君も友達とけんかしたことが一度はあるでしょう?

【生徒】 はい。小学生のときですが、友達とどちらが先に手を出したかということでケンカになりました。結局どっちにしろ、先生に怒られてしまいましたけど…。

【弁護士】 そういう争いごとがある場合に、裁判所は、訴訟の中でどちらが先に手を出したのかを調べ、事件を解決していくのですね。

【生徒】 なるほど。司法についてイメージがつかめました。では、2項に書いてある特別裁判所って何でしょう?それに、後半部分でいきなり行政機関が出てきましたが、司法とどう関係しているのですか?

【弁護士】 慌てないで、順を追って説明します。裁判所には大きく通常裁判所と特別裁判所に分けることができ、今ある最高裁判所とか下級裁判所は全部通常裁判所なのです。今ではもうないのですが、軍隊の中の事件を扱っていた戦前の軍法会議っていうのが特別裁判所に当たります。まぁ簡単にいうと、特別裁判所っていうのは、特別の人間や事件について裁判するためにある裁判所をいいます。

【生徒】 へぇ~、でもそれだったら離婚とかの家事事件とか少年事件を扱っている家庭裁判所も特別裁判所って言えないのですか?

【弁護士】 なかなか鋭いですね。確かに、家庭裁判所はそういった特別の人間や事件を扱う裁判所ですが、特別裁判所ではないとされています。イメージしてほしいのですが、裁判所は、最高裁判所を頂点としたピラミッドのように構成されていて、下の方にある簡易裁判所とか地方裁判所で争ったけど、負けてしまった場合には、次は高等裁判所で争うというようにして3回まで争うことができます。そして、家庭裁判所もそのピラミッドの中にあるのです。つまり、ピラミッドの中にある以上、家庭裁判所で争い、結論が不本意であればもう一度上にいって争うことができるのに対して、特別裁判所っていうのは、そうしたピラミッドの中にない裁判所でして、通常裁判所で争うことができないのです。

【生徒】 なるほど。でも、どうして特別裁判所は禁止されるのでしょうか?戦前の軍法会議みたいなものが禁止されるというのは何となくわかりますけど…。

【弁護士】 歴史的には、特別裁判所では、裁判が非公開で行われたり、裁判の結果が不当でもそれを争うことが出来ないという問題があったのです。そうしたことから、すべての裁判所をピラミッドの中に収め、きちんと3回争えるようにしたのですね。

【生徒】 そうなのですか。では、後段の行政機関との関係はどうなんでしょう?そもそも、先ほどの話からすると、裁判をするという司法権は裁判所にあるということでしたが、後段を裏返して読めば、行政機関は終審じゃなければ裁判できるっていうことになりませんか?

【弁護士】 まさにその通りです。さっきは、司法権は裁判所にあるっていったけど、実はこの規定から、行政機関による裁判も日本国憲法上認められるという解釈が導かれます。例えば、国家公務員法に基づく人事院の裁定や行政不服審査法に基づく行政機関の裁決なんかが代表例といえますね。

【生徒】 でも、そうしたら三権分立に反するのではないでしょうか?

【弁護士】 確かに、最終的に行政機関によって裁判されるとなると、司法権が分立されなくなりますよね。でも、76条2項はあくまで行政機関は前審として、すなわち、行政機関によって判断されたとしても、最終的に裁判所によって判断されることを保障しています。だから、やはり司法権は裁判所にあって、三権分立には反しないといえます。それに、行政国家という言葉を一度は聞いたことがあるでしょう?現代は行政の役割が拡大し、専門化が進んでいるから、そうした専門的な知識が必要になる問題については、まずは行政に判断させることに意義があるのです。

【生徒】 憲法も柔軟に考えている部分があるのですね。あと、76条3項は、確か司法権の独立を定めているのですよね?

【弁護士】 広く考えたら司法権の独立でいいですが、ここで特に定められていることは、裁判官の職権の独立ですよ。裁判官は憲法と法律と自分が考えていることにしか影響されないということをいいます。なぜこういう規定があるかわかりますか?

【生徒】 ん~と、やはり公平に判断されるべきだからではないでしょうか。政治やマスコミに影響されるのってどうかと思いますし…。

【弁護士】 確かにそうですね。あくまで仮の話ですが、学校の体育の授業中にクラスメイトの持ち物がなくなりました。そして、体育の授業をさぼっていたっていう理由から、君が皆から疑われてしまったとしましょう。そんなとき、皆が君を疑っているということから、先生が、君がやったのだと決めつけたらどう思いますか??

【生徒】 そりゃすごい腹が立ちますよ。登校拒否になってしまうかも。

【弁護士】 ですよね。それと同じことで、国民の多数がそう考えているからということで、裁判官がそれに従って判断してしまうと、少数派の人たちの利益は侵害されてしまいます。だから、そういうことを防ぐために、他者から影響を受けないよう、裁判官の職権の独立がわざわざ規定されているのです。

【生徒】結局、司法権も国民の利益を守るための仕組みがとられているということですね。憲法の意味を考えるのって面白いですね。

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