

【弁護士】 65条は「行政権は、内閣に属する」と定めています。
【生徒】 行政権…行政が権利なのですか?
【弁護士】 そうですねー。権利というよりは、作用と言った方が良いかもしれません。つまり、「行政作用は内閣に属する」ということになります。
【生徒】 では、行政作用とは何ですか?
【弁護士】 いい質問ですね。そして、それは難しい質問です。
簡単に言うと、すべての国家作用のうちから、立法作用(法を作る作用=国会)と司法作用(法を司る作用=裁判所)を除いた残りの作用をいう、と解釈されています。
【生徒】 「全ての国家作用―(立法作用+司法作用)=行政作用」ということですね。
なぜこのような引き算で、行政作用というのが定義づけされるのですか?
【弁護士】 難しく説明すると次のようになります。
すなわち、国家作用が分かれていく過程を歴史的にみると、包括的な国家作用のうちから、立法権と執行権がまず分かれて、その執行権の内部で、行政権と司法権が分けられました。引き算による定義づけは、このような歴史的過程に適合します。また、引き算で定義づけると、行政活動を包括的に捉えることができます。
【生徒】 ………
【弁護士】 …簡単に言うと、行政作用が歴史的にみて、立法作用と司法作用を引き算することによって生まれたから、そして、広い範囲に及ぶ行政作用を定義づけるのに引き算することが適しているから、ということになります。
【生徒】 なるほど。
そんなに行政作用は広い範囲に及ぶのですか?
【弁護士】 はい。特に、現代社会では広範囲に及ぶとされています。
(統治総論で見たかもしれませんが、)現代社会では、国家による国民の活動への介入をなるべく抑えるという「国家からの自由」が批判され、社会保障や経済政策など、国家による国民の活動への介入を広く認めるという「国家による自由」がなされるようになりました。
このように国家による社会保障や経済政策などが増えると、行政作用が国民の活動に広く介入するようになり、行政作用は肥大化し、社会の中に占める割合が大きくなっていきました。
したがって、行政作用は広範囲に及びます。
【生徒】 なるほど。
そういえば、今までの説明は、65条の「行政権は、内閣に属する」のうち、「行政権」についてのものでした。では、「内閣」って何ですか?
【弁護士】 先ほどの述べたとおり、国家作用のうちで、最も大きな組織・人員を用いて国民生活に密接した多様な活動を行うのは、行政作用です。現代においては、国民生活の全般について積極的に配慮する行政活動が要請されています。その行政活動全体を統括する地位にあるのが、内閣といえます。
【生徒】 内閣って、我々国民のためにあるのですね!
そんな内閣は、誰で構成されているのですか?やはり内閣総理大臣ですか?
【弁護士】 その点は、次のところで述べることにしましょう。
【生徒】 行政は全部内閣が行うんだ!すっげー!
【弁護士】 全部内閣が行うというわけではありません。
先ほど私が述べたとおり、内閣は、行政活動全体を統括するにとどまり、行政権は、行政各部の機関が行使します。ここで問題になるのが、「独立行政委員会」です。
【生徒】 独立行政委員会?
【弁護士】 独立行政委員会とは、戦後の民主化の過程において、政党の圧力を受けない中立的な立場で公正な行政を確保することを目的とし、その任務は、裁決・審決といった準司法作用、規制の制定などの準立法的作用、人事・警察・行政審判などのような政治的中理性が高度に要求される行政作用を行う委員会である。例えば、人事院、公正取引委員会、国家公安員会などをいいます。これらの独立行政委員会は、内閣または内閣総理大臣の所轄にあるとされながら、その職務を行うにあたっては内閣から独立して活動しています。
【生徒】 この独立行政委員会のどこが問題なのですか?
【弁護士】 特に、行政作用を行う独立行政委員会に関してですが、65条は「行政権は、内閣に属する」とされているにもかかわらず、独立行政委員会は内閣から独立して活動しています。そうすると、独立行政委員会は、65条に反するのではないか、という問題です。
【生徒】 たしかに、独立行政委員会が「内閣に属さない行政権」ということになりそうですね。
しかし、中立的な立場で行政作用等を行うからいいのではないですか?
【弁護士】 そういう考え方もあり得ます。中立性の要請も独立行政委員会が65条に反しない根拠のひとつです。
ほかに独立行政委員会が65条に反しない理由は、民主主義の観点から、国会のコントロールが及んでいれば、独立させても構わない、という根拠も考えられます。
【生徒】 答えはひとつではないのですね。
【弁護士】 そうです。